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ハリネズミの口腔内扁平上皮癌
ハリネズミの口腔内扁平上皮癌について
ハリネズミは名前に“ネズミ”とついていますが、実はモグラの仲間に近い種族です。様々な種類のハリネズミがいますが、現在日本でペットとして飼育されているハリネズミはヨツユビハリネズミだけです。顔立ちが愛くるしく、一生懸命丸まる姿に癒された方も多いのではないでしょうか?
近年ではハリネズミは主要なエキゾチックペットとして定着しており、様々な病気についても分かってきています。とりわけ、口腔内の疾患がとても多い事も有名です。
今回はハリネズミに比較的よく診られる口腔内扁平上皮癌について獣医師から解説します。
1:口腔内扁平上皮癌とは
口腔内は歯肉・歯・口蓋・顎骨・舌など様々な組織で構成されています。人では口腔内の病気と言えば有名なのは虫歯や歯周病、口内炎などがあると思います。ハリネズミでは歯肉炎、歯周病等も多いのですが、口腔内の腫瘍性疾患が多いとされています。
口腔内の腫瘍性疾患は、ハリネズミでは中高齢(3歳以上)に多くみられ、骨肉腫、線維肉腫、扁平上皮癌、線維性エプリスなどが認められます。一番よく遭遇するのが扁平上皮癌です。
扁平上皮癌とは、口腔内の扁平上皮が腫瘍化したものです。扁平上皮はその形から名前が付けられており、一番外側が扁平な形をしている上皮細胞です。ここが何らかの原因で細胞の増殖エラーが起こってしまい腫瘍化します。
図:扁平上皮癌について
2:ハリネズミの口腔内扁平上皮癌
ハリネズミの口腔内扁平上皮癌は、見た目はぼこぼこと歯肉が腫れているだけの時もあれば、大きくなると明らかな腫瘤性病変を形成する場合もあります。
ハリネズミの口腔内扁平上皮癌の症状は、食欲不振、採食困難、流涎、口腔内の出血、顔の変形などが認められます。
3:検査
ハリネズミの口腔内扁平上皮癌の際に、一番ご来院の理由になるのは顔の変形(腫れ)が最も多いです。このような症状が認められたらすぐにエキゾチックアニマルを診察できる動物病院へ行きましょう。
口の中を見る際は、丸まらない子であれば簡単に見ることができます。しかし、緊張して丸まってしまう子は鎮静、もしくは全身麻酔を使用して検査する場合があります。行う検査はX線(レントゲン)検査と生検(針もしくは組織)です。ハリネズミの口腔内扁平上皮癌ではレントゲン検査により顎の骨が融けてしまう様子が観察されます。生検は、病変部より、その細胞もしくは組織を採取することにより病気を診断する手法です。針生検(細胞を採取)か組織生検(病変部の一部を切り取る)のどちらかを選択できますが、針生検よりも組織生検の方が、情報量が多いため、実施できるのであれば組織生検を実施します。
3:治療
上記のような方法でハリネズミの口腔内扁平上皮癌と診断が下った場合、いくつかの治療法があります。
・外科手術
・化学療法
・放射線療法
3-1:外科手術
外科手術では、病変部の物理的な切除を行います。ハリネズミの口腔内扁平上皮癌の場合は、顎骨まで浸潤してしまっていることが多く顎骨切除が基本となってきますが、部位や大きさによっては切除が困難になることがほとんどです。また、ハリネズミの口腔内扁平上皮癌に対して顎骨切除を行い食欲不振が認められた症例が報告されています。根治的な手術が難しい場合は、減容積といって、腫瘍の大きさをできる限り小さくできるように病変部のみ切除する方法もあります。現在はこの緩和的な減容積手術が多く採用されています。
3-2:化学療法
化学療法とは抗癌剤を使用する方法です。使用する抗癌剤はカルボプラチンもしくはブレオマイシンという抗癌剤を使用することが多いです。化学療法を行う場合は基本的に静脈から点滴と共に流すことが多いため、ハリネズミの口腔内扁平上皮癌での化学療法は鎮静下、もしくは全身麻酔下で行うことが多いです。
犬猫ではトセラニブ(商品名:パラディア)という分子標的薬(抗がん剤の一種)を使用される例が見られます。しかし、ハリネズミさんではトセラニブが口腔内扁平上皮癌に対して有効であるエビデンスはまだありません。
3-3:放射線療法
放射線療法は、癌に対して直接放射線を強力に当てることによって癌細胞を殺滅することを目的としています。
現在ハリネズミの腫瘍性疾患に対して放射線療法を実施する機会が少なく、効果に対しての明確なエビデンスがありません。犬猫では口腔内腫瘍に対しての放射線治療は根治治療ではなく、外科手術と組み合わせた術後補助療法・外科切除が不可能な主要に対しての緩和ケアとして使用されるケースが多いです。
4:予後
ハリネズミの口腔内扁平上皮癌はコントロールが難しく、未だ治療法が確立されていない、予後が悪い腫瘍です。
手術も困難なことが多いため、徐々に食べられなくなってしまい衰弱していくことが多いです。最終的に亡くなってしまうことが多いです。大きくなり方は個体差が大きい印象です。
5:まとめ
・ハリネズミの口の中に出来る腫瘍(癌)としては、口腔内扁平上皮癌が多い
・治療法は確立されておらず、予後は悪い
・可能な限り早期発見・早期治療を目指しましょう