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ブログ 2024年9月
トカゲの代謝性骨疾患について
獣医師が解説します。
1.代謝性骨疾患とは
代謝性骨疾患と聞くと骨の問題やカルシウムの問題とされがちではある病気です。
一般的にはくる病などとも呼ばれますが、くる病とは正式名称を骨軟化症といい、【骨や軟骨の石灰化障害により、類骨(骨のもととなる骨器質)が増加する病気】と定義されており、骨成長前の小児に起こる骨軟化症をくる病と言います。
なので、爬虫類における血中のカルシウム濃度が低下する低カルシウム血症をきっかけに発症する病気を“代謝性骨疾患(Metabolic Bone Disease=MBD)”とまとめて呼ばれるようになりました。
爬虫類の飼育において、ごはんや環境を完全に再現することは難しく、様々な要因によってこのような栄養性疾患が爬虫類ではとても大きな問題となっております。
2.爬虫類の栄養学
爬虫類の栄養性疾患は一般的に認められる疾患で、多くは主に【ビタミンD(Vit D)】、【ビタミンA(Vit A)】、【カルシウム(Ca)】の異常に関連しています。今回はまず、これらの栄養素について解説していきたいと思います。
2-1:ビタミンD(Vit D)
Vit Dは脂溶性ビタミンとして知られており、哺乳類では消化管でのCaの吸収を促進するとても重要な役割を担っています。それだけでなく、Vit D3(コレカルシフェロール)は体の中で重要な役割を果たす様々なステロイドホルモンの前駆物質であり、免疫反応やインスリンの分泌、筋肉の収縮性、生殖器官の発達などに関連していると言われています。
このVit Dは爬虫類でも哺乳類でも、皮膚で紫外線の働きによって作られます。この時の紫外線の波長は290-315nmでこれはUVBと言われる波長にあたります。この波長の光はガラスを透過することが出来ないと言われており、もし爬虫類を日光浴させたい場合はガラス窓越しではなく、直接あるいは網戸越しが理想とされています。
現在様々なサプリメントが発売され、様々な研究が行われていますが、爬虫類におけるVit Dは様々な意見があります。トカゲ類においてはいくつかの研究が報告されているが、多くの種では経口摂取によるVit D3補給は効果が無いとされており、UVBの照射とともに行うことで骨格異常などを防ぐ効果があることが分かっています。
2-2:Vit A
Vit Aはレバーなどの動物性食品やβ-カロテンを含む緑黄色野菜に含まれています。Vit Aを摂取する際はレチノール(動物性食品に豊富)か、β-カロテンの状態で摂取することがほとんどであり、体内でVit Aに変換されます。爬虫類ではその吸収や体の中での働きがまだ解明されていない部分もありますが、グリーンイグアナの研究ではβ-カロテンを摂取させても体内のVit A濃度は上昇しなかったとの報告もあり議論が分かれています。
Vit A欠乏症はハーダ氏腺炎が有名です。トカゲの食事に使用される昆虫類はVit Aの含有量が低いことも知られています。Vit Aが不足することにより、眼瞼の中にあるハーダ氏腺が腫れるのと、涙腺の腫脹、細胞片の蓄積が原因となり目が開けられないほどの腫れを引き起こします。そのほかにも免疫力が低下するためカメ類では呼吸器感染症を引き起こすことで有名です。
Vit Aは欠乏症も有名で問題ですが、過剰症になりやすいことも有名です。サプリメントの過剰摂取もありますが、Vit A欠乏症として診断した場合、獣医師がVit Aの過剰な注射をすることで引き起こされます。治療を行う上で仕方がない部分もありますが、十分な注意が必要です。重篤な皮膚炎や食欲減退を起こす可能性があります。
2-3:カルシウム(Ca)
Vit D、Vit Aの章でも述べたようにCaはホルモンの調整を受けて体内に吸収されます。
多くのトカゲの食事に使用される昆虫類にはCaはあまり含まれておらずサプリメントを混ぜることが主な補給方法になります。この方法には2種類あり、ガットローディングとダスティングがあります。
ガットローディング:CaやVit D3、Vit Aなどの栄養を昆虫に食べさせてから、その昆虫を食べさせる方法。
ダスティング:餌となる昆虫に直接サプリメントをかけてから食べさせる方法
どちらの方が良いかなどの根拠となる報告は見つかっておりません。どちらにも長所があり短所があるので、ご自身の爬虫類の好みや餌となる昆虫の状態、自分のやりやすさなどから決めていきましょう。
3.トカゲの代謝性骨疾患
3-1:原因
上述したような栄養素の欠乏が認められることが一般的です。
以下にそれ以外の原因もまとめていきます。
・Vit Dの不足とその代謝産物の不足
・Vit A、Ca、リン(P)の不足
・カルシウムを調整するホルモン産生の変化
・エストロジェンの過剰産生
・運動不足 など
3-2:症状
・体重減少
・食欲不振
・筋肉の震え/不全麻痺/痙攣/チック様症状(顔をぴくぴく動かす)
・正常な体位を維持できない(筋力不足)
・病的な骨折
・排卵前期卵停滞、難産
・四肢の腫れ(骨が腫れる)
・カメレオンでは舌が出し入れしにくくなる
3-3:診断
・病歴の聴取によりCaやVit Dの不足
・症状
・血液検査:低Ca血症
・レントゲン検査:骨の異常(骨皮質が異常に薄い、骨折がある、骨が腫れているなど)
3-4:治療
・Caの補給
・UVB光の照射
※Caの補給の方法はCa製剤(グルコン酸カルシウム)の注射もしく経口的なCa剤補給のどちらかになります。
軽症であれば経口補給でも問題ないかと思いますが、痙攣を起こしたり、立てなくなっているような重症例では注射によるCa補給が最も効果的です。
MBDを疑う所見があったらすぐに爬虫類が診れる動物病院を受診しましょう。
4.予後
MBDは一般的によく見られる疾患でありながら、命にかかわる病気でもあります。重症の場合は治療に数か月要することもあります。軽症の場合は注射だけで症状が改善することもあります。
5.まとめ
・MBDは爬虫類で比較的よく遭遇する疾患です。
・原因は様々だが、よくあるのはビタミンD、ビタミンA、カルシウムの不足が多いです。
・サプリメントによるカルシウムの補給とUVBの照射が大事です。
・食欲不振、体重減少、神経症状が主にみられます。
・命にかかわる病気なので、疑わしい、もしくは心配なら爬虫類を診れる動物病院を受診しましょう。
(ココニイル動物病院) 2024年9月30日 09:00
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